川上憲人理事長が、職場のメンタルヘルスに関する総説を英国医学雑誌Lancetに公表しました
2023年10月19日
研究を行った部門:
一般財団法人淳風会健康管理センター
研究を発表した者:
川上 憲人
論文情報
Rugulies R, Aust B, Greiner BA, Arensman E, Kawakami N, LaMontagne AD, Madsen IEH.
Work-related causes of mental health conditions and interventions for their improvement in workplaces.
Lancet. 2023 Oct 14;402(10410):1368-1381. doi:10.1016/S0140-6736(23)00869-3. PMID:37838442.
ポイント
- 系統的レビューに基づき、仕事のストレスとうつ病の発症との間に関連性があることを報告しました。
- 労働者の精神健康の保持・増進のための方法論を、(1)有害影響を防止する、(2)仕事のポジティブな面を促進する、(3)精神的問題に対応するの3つに整理しました。
- 今後の職場のメンタルヘルス対策の進展に寄与する6つの提言を行いました。
川上憲人は、海外の共同研究者と共同で、労働者の精神健康の保持・増進について2つのことを明らかにしました。第1に、仕事のストレスがうつ病性障害の発症リスクを増加するという科学的証拠が一貫して観察されていることを文献レビューから示しました。
第2に、労働者の精神健康を保持・増進する職場での対策を、(1)有害影響を防止する(prevent harm)、(2) 仕事のポジティブな面を促進する(promote the positives)、(3)精神的問題に対応する (respond to problems)の 3つに整理しました。
(1)については、職場環境改善が一貫して効果を示していました。(2)については管理監督者およびリーダーシップ研修が効果的である可能性がありました。(3)については、メンタルヘルスファーストエイド(注1)や偏見への対策が効果的である可能性がありました。
(注1)「メンタルヘルスファーストエイド」:専門家に相談する前に、一定の訓練を受けた非専門家の支援者や市民が、精神的問題を有する人に対して、適切な初期支援を行うための行動計画のこと。「こころの応急手当」と呼ばれることもある。
本論文では、研究結果に基づき、6つの事項を提案しました。
- 精神的問題および精神障害のリスクを増加させる科学的根拠のある労働環境を規制し、管理すべきであること。
- 精神的に健康な仕事を形成する方針を作成、改善すること。特に非熟練労働者および低所得労働者の労働環境に焦点をあてること。
- 組織内の全ての階層において精神的に健康な仕事を創り維持するための指針、および管理監督者および労働安全衛生の専門家のための体系的な能力向上および教育訓練プログラムを促進するための指針を作成すること。
- 精神的問題および精神障害を持つ者が労働に参加できるように、国がサポートすること、また職場環境を改善すること。
- 精神的問題および精神障害の臨床的評価、診断および管理において、仕事と労働環境に関する情報を常に考慮すること。
- 国の精神保健の戦略の中に職場が含まれることを確実にし、職場のメンタルヘルスの重要性について社会的な認識を醸成すること。
本論文の研究成果は、これからの職場のメンタルヘルス対策の進むべき方向性を示すものであり、昨年発表されたWHOメンタルヘルス対策ガイドラインやILO/WHO政策ガイドとともに、職場のメンタルヘルス対策の研究および実践を推進すると期待されます。一般財団法人淳風会でもこれを基に、事業場における効果的な職場のメンタルヘルス対策の実施を支援してまいります。